大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成2年(ワ)1249号 判決 1993年5月24日

原告(反訴被告)

沼田一義

ほか一名

被告(反訴原告)

千葉嘉憲

ほか一名

主文

一  原告(反訴被告)らの請求をいずれも棄却する。

二  被告(反訴原告)らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを二分し、その一を原告(反訴被告)らの負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告)らは各自、原告(反訴被告)沼田一義に対し金三五〇万円、原告(反訴被告)沼田運輸倉庫株式会社に対し金三五万円及び右各金員に対する昭和六三年一月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告(反訴原告)らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  主文一項と同旨

2  訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

3  仮執行免脱の宣言

三  反訴請求の趣旨

1  原告(反訴被告)らは各自、被告(反訴原告)千葉嘉憲に対し金五八万〇一四〇円、被告(反訴原告)株式会社美友電気工事に対し金七七万五一八〇円及び右各金員に対する昭和六三年一月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

3  仮執行の宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  主文二項と同旨

2  訴訟費用は被告(反訴原告)らの負担とする。

3  仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  事故の発生

(1) 事故発生日時 昭和六三年一月八日午前〇時一三分頃

(2) 事故発生場所 仙台市泉区松森字後沢二三―二先路上

(3) 加害車両 普通貨物自動車(宮四五た四〇〇三)(以下「被告車」という。)

(4) 右運転者 被告(反訴原告・以下「被告」という。)千葉嘉憲

(5) 被害車両 普通乗用自動車(宮三三も一三三二)(以下「原告車」という。)

(6) 右運転者 原告(反訴被告・以下「原告」という。)沼田一義

(7) 右被害車両所有者 原告沼田運輸倉庫株式会社(以下「原告会社」という。)

(8) 事故の態様

被告車が国道四号線仙台バイパスを名取市方面から大和町方面に向かって進行し、有限会社安部自動車商会前の交差点を宝堰橋方面へ右折して本件事故現場にさしかかつた際、急激に右に転回しようとしたため、これに追従進行してきた原告車左前部が被告車右側部に衝突し、原告車が大破して、原告沼田が負傷した。

2  被告千葉の責任(民法七〇九条)

(1) 本件事故現場に到達する直前に、原告沼田と被告千葉は車の追越の方法が適切であつたかどうかなどが原因で喧嘩となり、被告千葉が被告車を運転してその場から逃走したところ、原告沼田が原告車で被告車の後方約二〇メートルをクラクシヨンを鳴らしながら追跡して本件事故現場にさしかかつたが、被告千葉は原告沼田の車を振り切るべくUターンを試み急激にハンドルを右に切つたため、被告車の一二、三メートル後方を時速五、六〇キロメートルで走行していた原告車はこれを避けきれずに被告車の右側前部に衝突した。

(2) このような場合、すぐ後方を原告車が追跡していることを認識していた被告は、自車について急ハンドルを切つた場合、追跡してきた原告車がこれを避け切れずに衝突することが予測しえたのであるから、後続車に注意し、後方の安全を確認したうえで減速、右折すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、原告車の動静に注意せずUターンすべく急激に減速してハンドルを右に切つたため原告車の進路を妨害し本件事故を惹起したものであるから、被告千葉には後方安全確認義務違反及び進路妨害の過失があり、民法七〇九条により原告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  被告株式会社美友電気工事の責任(自賠法三条、民法七一五条)

被告株式会社美友電気工事(以下「被告会社」という。)は被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたものであり、本件事故は被告千葉が被告会社の業務執行中に右過失により発生させたものであるから、被告会社は、人損につき自賠法三条により、物損につき民法七一五条により原告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(1) 原告沼田の損害

原告沼田は、本件事故により頭部打撲、頸椎捻挫、右中指捻挫、前胸部打撲等の傷害を受け、次のとおり治療を受けた。

(入院)

東北厚生年金病院(以下「厚生年金病院」という。)

昭和六三年五月一三日から同年六月四日までに二三日間仙台整形外科病院(以下「仙台整形病院」という。)

同年六月二四日から同年九月三日まで七二日間

(通院)

仙台整形病院

同年一月八日から同月二二日まで(実通院日数三日間)

同年六月四日から同月二三日まで(実通院日数六日間)

厚生年金病院

同年五月一一日

西川整形外科病院(以下「西川整形病院」という。)

同年六月二〇日

(損害額)

<1>治療費 一五二万七九三〇円

仙台整形病院 一四七万二六二〇円

厚生年金病院 三万九五七〇円

西川整形病院 一万五七四〇円

<2>入院雑費 一四万二五〇〇円

入院日数合計 九五日

入院一日につき 一五〇〇円

<3>通院交通費 一万七二〇〇円

(但し、自宅から病院までバスで通院した交通費)

仙台整形病院(往復一五六〇円・九日分) 一万四〇四〇円

厚生年金病院(同一七八〇円・一日分) 一七八〇円

西川整形病院(同一三八〇円・一日分) 一三八〇円

<4>休業損害 二〇三万二八七六円

昭和六二年度の収入を七〇〇万円として一日当たりの収入額を算出し、これに入通院日数合計一〇六日を乗じた。

<5>慰謝料 一三〇万円

<6>弁護士費用 四〇万円

以上合計五四二万〇五〇六円

(2) 原告会社の損害

<1>車両修理費 四五万一二〇〇円

<2>代車使用料 四万二四〇〇円

<3>弁護士費用 五万円

以上合計五四万三六〇〇円

よつて、被告ら各自に対し、原告沼田は前記損害額合計五四二万〇五〇六円の内金三五〇万円、原告会社は前記損害額合計五四万三六〇〇円の内金三五万円及び右各内金に対する本件事故の日である昭和六三年一月八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1項について

本件事故の当事者、車両、事故発生日時及び場所は認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2項について

本件事故前に原告沼田と被告千葉との間で喧嘩があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3、4項は争う。

4  後記のとおり、本件事故は、原告沼田の一方的故意又は重大な過失により生じたものである。

三  反訴請求の原因

1  事故の発生

(1) 事故の発生日時、場所は、本訴請求原因事実と同様である。

(2) 加害車両 普通乗用自動車(宮三三も一三三二)(原告車)

(3) 右運転者 原告沼田

(4) 被害車両 普通貨物自動車(宮四五た四〇〇三)(被告車)

(5) 右運転者 被告千葉

(6) 右被害車両所有者 被告会社

(7) 事故の態様

本件事故前に、被告千葉は原告沼田から仙台市宮城野区鶴ケ谷北畑地内付近でいわゆる幅寄せの進路妨害をされ、これを注意しようとして原告車を停車させたところ、これが契機となつて両者がつかみあいの喧嘩となつた。被告千葉はその場から逃れるため自車で逃走したが、原告沼田がその車で追跡してきたため、被告千葉は事故現場の直前の交差点でまいてしまおうとして右折したのち、本件現場わきの民有地を利用してUターンしようとして、現場道路上に停車していたところ、原告車が前記交差点でローリング痕を残しながら右折し、Uターンに手間取り停車状態の被告車のやや後方から激しく衝突した。

2  原告沼田の責任(民法七〇九条)

本件事故に至る経緯は前記のとおりであるが、本件事故は原告沼田の故意に基づく衝突行為である。仮に、故意に基づくものではないにしても、原告沼田の重大な過失によつて惹起された事故である。

よつて、原告沼田は民法七〇九条により、被告らに対し後記損害を賠償する責任がある。

3  原告会社の責任(民法七一五条、自賠法三条)

原告会社は原告車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたものであり、本件事故は原告沼田が原告会社の業務執行中、故意若しくは重大な過失により発生させたものであるから、原告会社は人損につき自賠法三条により、物損につき民法七一五条により被告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(1) 被告千葉の損害

被告千葉は、本件事故により頸椎捻挫、頭部打撲、胸部打撲、肺挫傷の傷害を受け、仙台徳洲会病院に次のとおり入通院した。

入院 昭和六三年一月八日から同年一月一三日まで(六日間)

通院 同年一月一四日から同年三月二六日まで(実通院日数一〇日間)

<1>治療費 二万四一四〇円

<2>入院雑費 六〇〇〇円

(一日一〇〇〇円として六日分)

<3>慰謝料 五〇万円

<4>弁護士費用 五万円

以上合計五八万〇一四〇円

(2) 被告会社の損害

<1>車両修理費 六四万〇一八〇円

<2>代車使用料 六万五〇〇〇円

(一日二五〇〇円として二六日分)

<3>弁護士費用 七万円

以上合計七七万五一八〇円

よつて、原告ら各自に対し、被告千葉は前記損額合計五八万〇一四〇円、被告会社は前記損害額合計七七万五一八〇円及び右各金員に対する本件事故の日である昭和六三年一月八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  反訴請求原因に対する認否及び反論

1  反訴請求原因1項の事実中、本件事故の当事者、車両、事故発生日時及び場所並びに本件事故前に原告沼田と被告千葉との間で喧嘩があつたことは認め、その余の事実は否認する。

2  同2項は争う。

3  同3項中、原告会社が原告車を保有していることは認め、その余は争う。

4  同4項は争う。

5  前記のとおり、本件事故は、被告千葉の一方的過失により生じたものである。

五  原告らの消滅時効の主張

1  被告らが本件事故の発生を知つた日の翌日である昭和六三年一月九日から起算して三年が経過したから、被告らの損害賠償請求権は、時効により消滅した。

2  原告らは、右時効を援用する。

六  右消滅時効の主張に対する認否

争う。

被告らは、被告千葉の治療終了日である昭和六三年三月二六日の翌日から三年経過前に反訴を提起しているから、原告らの消滅時効の主張は失当である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一本訴請求について

一  本件事故の当事者、車両、事故発生日時及び場所並びに本件事故前に原告沼田と被告千葉との間で喧嘩があつたことは、当事者間で争いがない。

右争いのない事実のほか、成立に争いのない乙第一四、第一五号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一八号証、被告千葉本人尋問の結果によれば、原告沼田は原告車を、被告千葉は被告車をそれぞれ運転して国道四号線仙台バイパスを名取市方面から大和町方面に向かつて進行中、仙台市宮城野区鶴ケ谷北畑地内付近で車両の走行方法等が原因で喧嘩となつたこと、被告千葉は、その場から逃れるため自車で逃走したが、原告沼田が原告車を運転して追跡してきたので、まいてしまおうとして事故現場の直前の有限会社安部自動車商会前の交差点で宝堰橋方面へ右折したのち、三〇メートル余り走行した地点でUターンしようとしたものの、これに手間取り二車線の対向車線の中間付近で車線と殆ど直角の状態で停車していたところ、原告車が被告車の右側面にやや後方から激突したこと、本件事故直前の原告車の速度は時速五、六〇キロメートルであつたこと、事故現場付近の道路は、いずれも幅員約三メートルの三車線からなるが、宝堰橋方面へ向かう車線は一車線のみで、他の二車線は反対車線となつていること、以上の事実が認められる。

なお、原告らは、「原告沼田が原告車で約二〇メートル前方の被告車を追跡中、本件事故現場付近で被告千葉が原告車の動静に注意せずUターンすべく急激に減速してハンドルを右に切って原告車の進路を妨害したため、被告車の一二、三メートル後方を時速五、六〇キロメートルで走行していた原告車がこれを避けきれずに被告車に衝突した。」と主張し、原告沼田の供述中には、これに符合する部分があり、また、警察官鈴木昭正作成の交通事故現場臨場報告書(甲第一三号証の一、二)にも、右主張内容に符合する記載部分がある。

しかしながら、右報告書は、記載内容自体正確性を欠き、作成者である証人鈴木昭正の本件事故に関する供述内容も曖昧な部分が少なくないうえ、被告千葉本人尋問の結果によれば、右報告書作成の際、被告千葉は、右警察官から事情聴取をされなかったことが認められるから、右報告書の内容は、にわかに採用できない。

さらに、成立に争いのない乙第一一号証によれば、被告車と原告車の排気量及び重量を比較すると、前者が一〇〇〇ccで六七〇キログラムであるのに対し、後者は三〇〇〇ccで一六〇〇キログラムであることが認められ、右認定事実と、前掲乙第一四、第一五号証によつて認められる原告車及び被告車の損傷状態のほか、被告千葉本人尋問の結果を併せ考えると、前記原告らの主張に符合する原告沼田の供述部分もまた採用しがたい。

そして、他に本件事故の状況に関する前記認定を覆すに足りる証拠はない。

二  右認定に係る事実関係、特に事故現場付近の道路状況、両車の衝突地点、衝突角度、本件事故直前の原告車の速度等にかんがみると、本件事故は、原告沼田の一方的な過失により生じたもので、被告千葉には何ら過失はなく、被告会社には自賠法三条ただし書所定の免責事由があるものといわざるをえない。

三  したがつて、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、棄却すべきことに帰着する。

第二反訴請求について

一  原告らの消滅時効の主張について

1  本件事故が昭和六三年一月八日に発生したことについては当事者に争いはなく、他方被告らが反訴を提起したのが平成三年三月一一日であることは当裁判所に顕著である。原告らは、本件の損害賠償債権の消滅時効は事故の翌日である昭和六三年一月九日から進行し、三年の経過により完成した旨主張する。これに対し、被告らは、右消滅時効は被告千葉の治療終了の日である昭和六三年三月二六日の翌日から進行する旨主張するので、以下検討する。

2  被害者が不法行為に基づく損害の発生を知つた以上、その損害を牽連一体をなす損害であつて当時においてその発生を予見することが可能であつたものについては、すべて被害者においてその認識があつたものとして、民法七二四条所定の時効は前記損害の発生を知つた時から進行を始めるものと解すべきである。

これを本件についてみるに、弁論の全趣旨及びこれにより成立が認められる乙第七号ないし第一〇号証、被告千葉本人尋問の結果によれば、本件事故により、被告千葉は頸椎捻挫、頭部打撲、胸部打撲、肺挫傷の傷害を受け、被告車について右前部損壊の結果が生じたこと、被告らは、本件事故直後に不法行為に基づく損害の発生を知つたこと、被告らが反訴においてそれぞれ主張する損害は、いずれも本件事故により被告車が損壊し被告千葉が身体傷害を受けたことと牽連一体をなす損害であつて、被告らにおいて事故当時その発生を予見することが可能であつたことが認められる。

したがつて、被告らは、本件事故発生直後に反訴においてそれぞれ主張する損害についての認識があつたものというべきであるから、その時から三年経過後になされた反訴の提起の時点においては、被告らの原告らに対する損害賠償債権の消滅時効は既に完成していたものといわなければならない。

3  原告らが右時効を援用していることは、当裁判所に顕著な事実である。

二  右のとおり、原告らの消滅時効の主張は理由があるから、被告らの反訴請求もまた、その余の点について判断するまでもなく、いずれも失当として棄却を免れない。

第三結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求および被告らの反訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九三条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯田敏彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例